2011/12/05

スーツのはなし VOL・132

「人体とスーツ」


平均値で製造される既製服のスーツ。フィッティングをして補正が行われるのだが、

いわゆる寸法的補正のみが行われる事が多い。つまり上衣なら袖丈、着丈、胴回り

など。組下なら、股下、ウエスト、渡り幅など。長さと幅の補正に過ぎない。

平均値における標準体の既製スーツは、身長×0,47がウエストサイズといった感じ

である。さらに胸囲と尻囲は同じになるのが標準的体型だ。

次に既製スーツでは、パスしてしまっている体型の補正について。

標準的な体の線の考え方を示してみるが、ぴったりと該当する人は少ない。

まず、肩傾斜。首のつけ根の第七頚椎から肩先は7cm下がるのが基準。この数値が

小さければ一般よりいかり肩、大きければなで肩ということになる。そして体を側面か

ら見てみる。身長計の支柱あるいは垂直な壁に背中をつけている状態をイメージして

欲しい。後頭部の次に接触するのが肩甲骨である。先の第七頚椎は壁から6cm離れ

るのが標準。これを「首入り」という。衿の後ろのつき皺や衿抜けの原因になる反身体

や屈身体認められても、既製スーツでは前身と後身のバランスが崩れたまま着用しな

ければならない。さらにウエストの位置は5cm離れる。それを「腰入り」という。同様に

「尻入り」は1cm程度。背中のこの曲線が合わせられれば、スーツのオーダーの第一

関門突破。

よく出来たマネキン(派遣販売員ではなくディスプレイ用ボディ)は概ねそのように作ら

れている。既製服はスーツに限らず、標準的な体型で作られている。寸法の補正だけ

では人体という立体に美しく添う服にはなり得ない。正面から姿を見る場合、左右対称

である身体の中心軸は誰にでも理解できる。横から見た時の肩、胸、腹、背の姿勢の

軸には、着手も売り手も関心が薄いのは何故だろうか。スーツ姿は全方向から見られ

ていると思うのだが。