2011/12/27

野心VS礼節

久しぶりに本をしっかりと読んだ。っていうか、一気に読んだ。

十二月のとある日、十年以上お付き合いのあるお客様から

おずおずと手渡された、一冊の本。

題名や帯を拝見させていただき、仕事柄興味を間違いなく持つと思われてのお客様の

差し入れっていうか、ご好意に感謝でございます。

しかしながら、裏を返せば、知識教養に乏しいK玉のブログネタとして提供されたと

理解したほうが解りやすいよなな今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

← けっこうなプレッシャーをさらりとかけてくる○ロギさんでした。(汗)







とりあえず、帰りの高速バスの中で、その本を取り出しパラパラとめくってみる。

もちろん題名からして、惹かれないわけもなく、

「シューメーカーの足音」  本城雅人 とあり、

ビスポークらしき靴とラストが表裏表紙にあり、帯には 野心VS礼節 とある。



キーワードに「英国王室御用達」なんて言葉もあり、

ストーリーに興味がないわけじゃないんだけど、K玉的にはどこまで作者が

ビスポーク靴の世界を理解しているのか、紳士靴(服)業界のことを把握してるのかと

ちょっと意地悪な目で読み始めたわけだ。







そこには綿密な取材に裏打ちされたリアリティーがあった。

注文靴に少しは縁のあるK玉でも、全く縁のない方でも、ロンドンの工房を訪れた

気分にさせてくれる。

作者の本城氏は真摯にビスポーク靴に敬意を表して取り組んだことがわかる。

いくつか引用してみよう。

K玉的にっていうよりも、靴やアパレル業界なりに携わってなくても解るフレーズが

各所に散りばめられている。



「その時、私は靴を作る上でとても大事なことに気づいたんですよ。ああ「快適さ」(カンフオタブル)


と「痛み」(ペイン)というのは紙一重なんだって。」 とあり、

「サイズの緩い靴というのは「痛み」を感じることはありませんが、「快適さ」を感じることも


一生ないということです。」  とある。



まさに紙一重の話なんだな。

昔々、緩い靴を履いていた若い自分がいた。

足のサイズが小さいことがそれなりのコンプレックスなK玉としては、オーバーサイズで

誤魔化して、インソール(中敷)で補っていたこともありましたです。(苦笑)

← 自身のラストを作ってからはジャストフィットな靴しか履いておりませんです。




また、こんなフレーズも。

「大事な仕事に行き詰まったらまず靴を磨くべきだ。そうすれば心の迷いが吹っ切れ


曇った鏡から湯気が取れるように困難が取り除かれていく。。。」



これはK玉自身、身をもって体現したことが何度もある。

靴でなくとも身の回りの片付けをするだけでリセットできるのは間違いのないところであろう。



「ムカデじゃないんだからいったい何足買ったら気が済むのよ」。。。



これに近いことはもちろん言われたことがある。

ただただ苦笑いですよね。。。

収納スペースさえ確保できれば解消する問題のようにも思うです。

K玉家では下駄箱に収まらない靴は箱に入れて部屋に積んでる状態で、

収納スペースが欲しい限りでございます。(涙)



最後に、サスペンス的な決め台詞として結から引用してみよう。

「靴作りに求められる職人の野心と礼節。この矛盾する二つを併せ持つことが出来て、


初めて客は、その職人に自分だけの一足を作って欲しいと思うのです。」 

と、締めくくられている。



名を馳せるためならば手段を問わない野心と


他者の笑顔のために我欲を捨て去る礼節。



「礼節というのは、うわべだけではなく、心の奥の方で積み重ねていくものだからです。


環境ではなく精神の問題です。」 と答えている。


随分難しいことをいう。

二人の主人公(靴職人)がいて、方や野心が足りなく、もう一人は礼節が欠けている。

そして結末を迎えるんだけど。。。

とりあえず、このミステリーは思いのほか爽やかな読後感で

それぞれがまた靴の世界で新たな一歩を踏み出すエピローグで

ちょっと助かったっていうか、K玉自身の仕事と重なる部分が多く、胸の痛い感じが

エピローグで救われた、それなりに内容の充実した作品でした。




おまけ: 本日の仕立て上がり~当然、靴編!



K様  LAST 2091 ホールカット 

つま先にふくろうのパーホレーションをあしらったホールカット。

ライニングも黒、総カラスと黒尽くめのオーダーです。

一枚の革で仕上げるため、職人により高度な技術が求められるヤツです。

長年温めてきたイメージを今回、初オーダー頂きました。

K様、お待たせいたしました。