2011/02/08
スーツのはなし VOL・122
「エヌからの出発」
1着の上衣、スーツあるいは単品ジャケット。採寸や型紙の上での起点となるところがある。
ネックポイント(以下、NP)である。ジャケットのポケットや釦の位置を決めるとき、裾廻りなど
から測る人が多い気がする。 しかし、ジャケットなどの型紙上の寸法、サイズではなくディテ
ールの位置関係はすべてこの点を中心に決められている。胸ポケット、脇ポケットや釦の位置
などがそうである。服屋に行ってポケットや釦の位置をNPから測っていれば、安心して任せて
いいかもしれない。
じゃあ、そのNPってどこよ?
上衣の衿をちょっとめくって、肩線が首廻りと交わるところだ。両サイドにあるからサイドNPで
話は通じる。 通称、「エヌ」とも言う。
「テイラーの恥」と言われる突きじわ。いかり肩や前肩、屈伸の背幅不足など要因は様々で
あるが、このしわもNPが着手の体のNPと一致せず、服のNPが前方に行こうとする為に衿ミツ
(背中心上部)が押されて発生する。着づらい服は、原因は色々でも結果としてヌードと服の
NPがずれていることが多い。
NPから両肩先向かう肩線。高級服の場合、肩線は前身よりも後身の方が長いものをイセ込
んで同じ長さに縫い上げる。後身が元に戻ろうとする力で肩線が前に湾曲する。この線は肩の
綾線に添った接ぎ線であるが、デザイン的に位置を変更しても着心地には影響しない。
NPから肩線を後ろにもっていくクロスショルダー(肩線バック)。
これは本来肩廻りに集中する複雑な造作を避け、後身はなるべく構造が簡単な一枚の
布として作り、肩甲骨の膨らみを出しやすくしたと思われる。
現在では一つのデザインとなっているが、肩線にかかわらずNPは同じところにある。
スーツのなはし VOL・122 「エヌからの出発」 笹川 正章